日本の古典 古代編 第1回 文学の発生

第一 回 文学の発生
一.文学とは何か
 文学 言語を主体とする表現 非日常的な言葉 
祭式の未分化な表現から言語表現が自立していく過程そのもの。
     祭式言語が民間の伝承となる。祭式で使われる言語表現であるから言葉に
     呪力がある。
一.言葉の呪力 −−言霊
言霊とは、口に出して云い立てた言葉は、そのまま事実として発現するという
言葉の不思議な働きを言霊という。
例 祝詞祈年祭」(としごいのまつり)
内容 抜粋
      「皇等の依さし奉らむ奥つ御年を、手肱に水沫畫き垂り、向股に泥畫き
      寄せて、取作らむ奥つ御年を、八束穂の伊加志穂に、皇等の依さし奉らば、      初穂をば千穎八百穎に奉り置きて、瓶の上高知り、瓶の腹滿て雙べて、汁に      も穎にも稱辭竟へ奉らむ。」
解釈
       田植えから収穫までの一年の農作業を抽象化してる。御年は稲の意味
稲作の過程を言葉で実修し、現実の結果が良く表れるように期待
している。  → 予祝
古代の非日常語である。 対句表現、賛辞の畳重ね
二行を一括りとして叙事を進行させていくやりかた。
八束、千、八百 数が多いことを祝福的に表現している
二.枕言葉、音数律 −非日常的な言葉の特徴
古事記 「允恭記」軽太子の歌謡
隠り国の  泊瀬の河の 枕言葉
         上つ瀬に  斎杙を打ち 対句表現
         下つ瀬に  真杙を打ち
         斎杙には  鏡を懸け
         真杙には  真玉を懸け    
         真玉如す  吾が思ふ妹 比喩関係
         鏡如す  吾が思ふ妻 枕詞 賛美している
         ありと言はばこそに 
         家にも行かめ 国をも偲はめ

【解説】同母兄妹婚の禁忌とそれを破って恋に落ち、伊予に流された太子が妹
とともに心中するという悲劇的な説話である。いわゆる「貴種流離譚」 の典型とも呼べる説話であり、しかも、その内容は、引用した通り十 二首の歌謡によって構成されており、古事記下巻に収められた説話の中 では、もっともよく知られたものである。また、それぞれの歌謡は二首 一組で配置され、それぞれに、志良宜歌・夷振の上歌・宮人振・夷振の 片下ろし・読歌といった歌曲名称が注記されている。それは、宮中の大 歌所などで伝承されていた歌謡だったからだろうと考えられている。た ぶん、この説話はもともと二人の歌ったという歌謡だけで伝えられてい たのであろう。

五・七音を基本。としているが、日本語になじみやすいからという指摘は俗説。
六、八音、四音とかまちまちである。 なぜ五・七音と収斂していったかは
不明だが漢詩の影響もあるかもしれない。
短句+長句 の比喩関係と短句は長句への讃美の意味を持っていた。

三.古代歌謡の表現 −長歌謡とと短歌謡
長歌謡のの例
古事記第5変奏2、神語り」
  八千矛(やちほこ)の 神の命(みこと)は
 八島国(やしまくに) 妻(つま)枕(ま)きかねて
 遠々(とほとほ)し 高志(こし)の国に
賢(さか)し女(め)を 有りと聞かして
 細(くわ)し女(め)を 有りと聞こして
 さ婚(よば)ひに あり立たし
 婚(よば)ひに あり通わせ
 太刀(たち)が緒(を)も 今だ解かずて
 旅衣(おすい)をも 今だ解かねば
 乙女(をとめ) の寝(な)すや板戸(いたど)を
 押そぶらひ 我(わ)が立たせれば
 引(ひ)こづらひ 我(わ)が立たせれば
 青山(あをやま)に 鵺(ぬえ)は鳴きぬ
 さ野(の)つ鳥 雉(きざし)はとよむ
 庭(には)つ鳥 鶏(かけ)は鳴く
 慨(うれた)くも 鳴くなる鳥か
 この鳥も 打ち止(や)めこせね
 いしたふや 海人馳使(あまはせづかひ)
 事の 語言(かたりごと)も こをば
  
この歌の注意点
 初めは三人称的、その後一人称となり、紙の自序の形式。歌い手に神が表意
 したという祭式での言語表現の特徴が出でいる。


短歌謡の例
古事記 中巻 神武天皇 皇后選定」
片歌問答
ここに大久米命、天皇の命(ミコト)以(モ)ちて、
その伊須気余理比売に詔(ノ)りし時、
その大久米命(オホクメノミコト)の黥(サ)ける利目(トメ)を見て、
奇(アヤ)しと思ひて歌ひて曰(イ)はく、
     あめつつ ちどりましとと など黥(サ)ける利目(トメ)
    ここに大久米命、答へて歌ひて曰はく、
      媛女(ヲトメ)に 直(タダ)に逢はむと 
      我(ワ)が黥(サ)ける利目(トメ)
    故(カレ)、その嬢子(ヲトメ)、「仕へ奉らむ」と白(マヲ)しき。

 解釈
  求婚に対して機知的な謎かけ問答が行われ、難題に男子がうまく答えられたら
  結婚を承認する風習があったことが背景にある。

 神の詞の解釈者  審神者(サニワ)
神の言葉→謎 解答→答 という組み合わせは、和歌の基本的な様式で
ある「景+心」の比喩表現につながる。 片歌問答は短歌謡の典型。

以上