社会の中の芸術 第15回 料理芸術についての言説

15.料理芸術についての言説

 ビデオ要約

  辻料理教育研究所 所長 山内秀文さんのと対談
   ここには、フランス料理の古書コレクションが膨大にある。
   フランス料理には昔から記述された言説が多く本となって残っている。
   山内さんはフランスに滞在して研究した成果を「フランス料理研究」(1977)
として 1点のみの本としたまとめた。
フランス料理の古書について
1.14c出版 「LE VIANDIER」著者 TAILLEVENT 中世のフランス料理書
2.1658年 「Le Cuisinier francois」 料理書の先駆けとなった本
 ルイ王朝の料理の基本となった。
エピソード コンデ公の大宴会 
  1671年 シャンティ城で3000人の宴会を開催した、社会的な意味があった
   指揮した料理人 ヴァレル 準備中の不手際の責任をとって自殺した
3.18c 「 Les Dons de Comus」 王侯貴族向けの料理本
4.1815年 「L'Aht du cuisimier」(料理人の技術)
料理法が詳細に記述されているこれをもとにレストランができていった。
5.19c 「LAht de la cuisimergrancaise au XIXe.secle」 著者 アントナン・カレーム
   パテシェフから料理人となった人。
6.「Le Patission yoyal parisien」 著者 アントナン・カレーム
 料理人の社会的役割を重視して料理書を多く書いた。
 フランス料理の高みの記録と後進への伝承を目的としていた。
 この背景は革命後に市民層がレストランに行くことが広まったことか
  宮廷料理とは違って少ない料理人でもできる簡略化した料理方法が
  求められていたことにある。
7.19c 「Almanach des gourmands」著者 グリモ
 ミシェランの先駆け、美食を求めるブルジョアにファション年鑑の真似を
 して美食の伝達手段として年鑑を発行した。
8.18c 「Physiologie du gout」(味覚の整理学) 著者 ブリヤ・サヴァラン
判事だったので匿名で出版 
  美食学を打ち立てた。食文化としてフランス料理を確立したい意図。
9.20c 「La France gastronomique」
   フランス料理のガイドブック 28巻
10.20c  「Le Guide culinaire」著者 エスコフィエ
 20cフランス料理を集大成したもので世界に向けてフランス料理の
 情報発信をする目的もあった。
 
それぞれの時代に合わせた料理法を伝授するとともに食べる事を通じて
フランスの食文化を支えてきた人達がいたという事実を認識すること。




   
 まとめ
 芸術は社会から離れて純粋に追求しててけば良いのであって、自己の表現したいもの
を個性として活かしていけば良いという考えは、19世紀の後半以降に出てきた考えで
あり、19世紀以前はそうでなっかたし、今日でもそれはごく一部の理解のしかたでしか
ない。 社会の中で良いものが凝縮して芸術として存在するものであり、社会と芸術は
密接に結びついているものであるという認識を持つこと。
                    ビデオ教材 以上

  印刷教材の要旨

 ブリア・サヴァラン の美食哲学について
 1.宇宙は、生命によってのみ無ではなく、生きるものは全て食べて自らを養う
  解説:「存在の連鎖」に基づく「生命の連鎖」の宇宙哲学を言っている。  
 2諸々の動物は、むさぼり食らい、人間は食べ、ただエスプリをもった人だけが
  食べる術を心得ている。
  解説:食べるという行為が知的精神の考察の正当な対象である、ということをも
    宣言している。
 3 諸国民の運命は、それらの諸国民がどのようにして食べているかというその
  あり在り方次第である。
  解説: その国の国民が滅びるか、滅びないかは、その国民の食の在り方に
     かかっている。 飽食と食物廃棄の問題やTPPによる食料自由化の動き
     なども具体的問題として存在している。
 4 君が何を食べているか私に言ってくれたまえ。そうすれば、私は、君がどのよう
  な人であるかを君に言ってあげよう。
  解説: 食並びに料理は、身体を生物学的に形成しているのでだけではなく、
  人と人の人生そのものや経験を形成し人格そのものも形成している
     例 恋人どおしがレストランで何を食べるか相談している時にその人が
       わかってくる。 見合いでお食事をするとうのは理にかなっている。
 5 創造主は、人間に、生きるために食べることを余儀なくさせるのであるが、
   彼は、食欲によって、人間にそのことを行うように促し、快楽によって、
   人間にそのことの賛美を与えるのである。
   解説 :生きるために快楽があり生物というのはそういう本質を持っている。
      これは性欲も同様である。
 6 グルマンディーズは、私たちの判断力の一つの現実態である。その判断力によ
  っては、私たちは、味覚にとって心地よいものの方を、もっていないものより
  好んで選ぶのである。
   解説 : 味の分かる人は、その経験の蓄積により、美味への深い愛を持つ。
 7 食卓の快楽は(中略)、他のすべての快楽がなくなってしまった後でも、最後
  まで存在し続けて、他の快楽がなくなった後でも慰めてくれる。
   解説 :色々な階層による受取の違いがあっても食事をとることが人間に
      とって根源的な快楽である。
 8 食卓は初めの1時間の間、人が決して退屈しない唯一の場所である。
   解説 :フランス料理は初期は、宴会のようにすべての料理がテーブルに
      一斉に並ぶ形式だった。 よってどれを食べようかとという興味と
      食欲で最初は退屈しない。 カニを食べる時を思い出せば良い。
 9  新しい一皿の料理の発見は、人類の幸福にとって、ひとつの星の発見よりも
   有効なものである。

  解説: 既存の材料でも組み合わせや調理方法で新しい味覚の料理となる。
     これはすで存在するものの発見を創作行為と看破する古典的な意味での
     存在論のミーメーシス哲学である。

 北大路廬山人について

  略歴と功績の記述は省略。
   廬山人の言葉
  「自然の中にある美を見出すことができる人が芸術家である。
  いかなるすぐれた料理人といえども自然の食材が持っている力=可能性を
  超えることは絶対にできない。 大根を例とすると、よい土地とよい栽培条件で
  育った新鮮でよい種類の大根を選ぶことが料理人の心得として必要である。」

  これは、アリストテレスのゼウクシス的選択ミーメーシス理論と同じ美学理論で
  ある。

  まとめ
   美術や絵画、音楽などの諸芸術は、哲学を初めとする文化の本質の社会的な
   ミーメーシスであり、料理は、フランス料理と日本料理が異なるように
   自然の本質の社会的なミーメーシスなのである。
  
   美術・音楽 ---- 文化の本質の社会的ミーメーシス
   料理 --------- 自然の本質り社会的ミーメーシス

  ミーメーシスとは
   ミーメーシスとはギ リシア語で「模倣」という意味だが、ミーメー シスとは単なるコピー=複写ではなく、「本質的なるものの再現」と言った方が良い。更に、芸術がミーメーシスの原理に基づくという時、芸術創作とは「より 真なるものをこの世に出現させるための営為」ということなる。