日本近代文学論 夏目漱石 「こころ」を読む 2日目

日本近代文学論 夏目漱石「こころ」を読む 2日目
上の課題 私と先生の黙約とは何か
  中の課題 どうして危篤の父親をおいてすでに死んだと思われる先生ところに
       行ったのか。
  下の課題 先生は若く人生経験の乏しい青年になぜ遺書を託したのか?
       
  課題3:明治の精神とは何か
  課題4:遺書の執筆動機は何か

   色々の意見を参考にして自分の意見を構築するのはよいが、最後に人はそれぞれ
   ですからね、と結ぶのは危険。 人の意見を放棄している。
   読書をして自分の心からの感動を持つことが大切。 疑問や課題がどんどん出て
   くる作品は読む価値があると考える。
 疑問
  Kはなぜ自殺したのか?
    Kは自分の理想を追求したあまりに、恋愛感情を持つことに悩み"私"からの
追求もあり、自分の生き方を貫き通すことが難しくなってきて自殺した。
    "私"は打算的で我欲を出した卑怯な人間。
     しかし、現代の感覚では「我欲を貫くことが悪いことかというとそうでは
     ないと答える人が大部分」 自らを責めるべきではないとという意見も多い。   我欲をめぐる価値の問題とも受け取れる。
    明治 -- 我欲の否定、自己犠牲の精神
    大正 -- 大正デモクラシーの時代。人間尊重の考えかた。生命主義、自我主義         武者小路実篤志賀直哉白樺派が、
          自己肯定→未来の理想→幸福な社会の実現 を標榜していた。
    漱石は、この小説を丁度その頃の時代の空気を感じながら「こころ」を書いた。
  
    大正(私) ==== 我欲 ====明治(先生)
  価値観の衝突があった。
 課題の解
   3.明治の精神への殉教とは何か
     倫理、儒教精神、
        文明開化  融合した「和魂洋才」を理想とした。
      
   4.先生が遺書を書いた動機は何か
     人生には生きる目的意識が必要、生きてきた証も必要。これがないと
     生きていく気力がなくなる。 そして自分を理解する人間が欲しかった。
     遺書の形で表現した理由。
      後世の人に残すつもりで書いた。生きた痕跡を残したい、
      文学者は言葉、文字で残す。残された文章や本は自分の分身でありわが子
      でもある。
     漱石自身が文学者としての自分の考えを先生の言葉を借りて表現した。
     そして書いたものが読者の心と響きあい、先生の心を自己の心に継承する
     ことができれば幸いである。
      先生の魂は表現されることによって、永遠の生命を獲得する。
       これが芸術である。
 課題2.答
    なぜ、危篤の父親を置いて、東京に旅立ったか?

      先生 ⇔ 私|⇔  実父
    (精神上の父親)   | (肉親)
|         
新時代    |  旧世代(明治)
       実父と精神上の父が息子を取り合いしている構図が浮かび上がる。
        選択として、新時代は青年にしか託せないので近代の精神を持つ先生のほうを選択することを表すために、東京に旅立ったという解釈も成り立つ。
      いわば「生みの親より、育ての親」を選んだ結果である。

 課題1. 黙約とはなにか
   答: 精神上の父である先生とその息子である私との契約。
      新しい時代で、父親の意思をついで生きる息子への糧として欲しい。
と遺書を託した。

 質問1:課題2の回答のような学説はこれまでの漱石研究であるのか
  答:この解釈は新しいと思う。まだこの解釈を他の人が主張しているのは
    見ていない。論文にするとしたら論文発表のセオリの手続きを踏んでやる
    必要がある。
 質問2:先生と"私"は同性愛的関係ではないか
  答 :文章の部分だけを見るとそれらしき傾向を読み取れる部分はある。純粋な       テキスト解釈をする人ではそういう分析を発表して人もいるが漱石の意図
    ではまったくそれはないと思う。むしろ師弟愛、父子愛に近いものである。
 
 質問3:"私"が東京にいくことを選択した理由として、奥さんに侘びとお悔やみに行き
    奥さんと一緒になるような含みを結末としている映画(1955市川昆監督)が
    あるがどうか。
  答:市川さんのまだ若い時の映画で解釈としてはあるかもしれないが、そのような
    実務的な理由ではなくもっと深いものがあったと考えるほが妥当だと思う。
    映画ではそういう脚色もあるかもしれない。
 
他に有益な脱線講義がありましたが、掲載は省略します。
                             以上