和歌の心と情景ー8メモ

8.将軍源実朝の和歌
 兄頼家の跡をついで1203年第3代将軍となる。 1219年甥の公曉により殺害される。
 家集「金塊和歌集」  賀茂真淵アララギ派に絶賛された。
 将軍であったために個性的な作品がある。将軍としての和歌
  "時により過ぐれば民の嘆きなり 八大龍王 雨やめたまえ"
                         *雨乞いの神
  虚構性--------観念で詠んだ歌。
   音の問題 --- 雨たべ海龍王                           
 "箱根路を われ越え来れば 伊豆の海や 沖の小島に 波の寄る"
    虚構を含むことで、将軍としてのふるまいに慣れてくる。
 
 "もののふの 矢並みつくろふ 籠手の上に 霰たばしる 那須の篠原"
   父の狩りの一瞬を詠んだ。
 
 "たまくしげ 箱根のみ海 けけれあれ 二国かけて 中にたゆたふ"
    二所詣を古歌によって飾りたてている。
 
 "古寺の 朽木の梅も春雨に そぼちて花ぞ ほころびける"
    30年ほどしか経っていない寺、歴史を背負っている自負がでている。
 
 "なかなかに 老いは惚れても 忘れなでなどか 昔をいと偲ぶぶらむ"
 
"道遠し 腰は二重に かがまれり 杖にすがりて ここまで来る" 
   老人を演じている歌。為政者にふさわしい心遣い。 古さへのあこがれもある。 
 
 "ものいわぬ 四方の獣 すらだにも あはれなるかなや 親の子を思ふ"
"いとほしや 見るに涙もとどきらず 親もなき子の 母を尋ぬる" 
 
   将軍として憐憫の心を表した。
 
音に敏感、仏教語を取り入れている
 "炎のみ 虚空に満て阿鼻地獄 くへもなしといふもかなし"
"塔を組み 堂をつくるも人の嘆き 懺悔にまさる 功徳やはある"
"大日の 種子より出てて三味耶形 三味耶形 また尊形となる"
  道場観という瞑想法を詠んだかとも思う。 
 和歌の韻律のもつ力、心と心人をつなげる力を理解していた。
 "大海の 磯もとどろに寄する波 われて砕けて裂けて散るかも"
 
  "て" の反復が使われている。が効果的なつかい方がされている。
  万葉集の歌の寄り添いながら新たな風景を発見している。
 
 古歌にわが身を共振させる方法。
 "春雨にうちそぼちつつ あしひきの 山路行くらむ山人や誰"
 
1219  正月 鶴岡八幡宮 右大臣肺拝賀の式典で公曉により暗殺された。
 実朝の和歌は、音や古歌へこだわることを通してよりよい将軍で
あろうとする彼の思いを伝えている。 将軍の和歌であった。