日本の古典 第十四回 源氏物語の世界(2)

十四、源氏物語の世界(2)

一、第二部の世界
若菜の巻上巻から 女三の宮の婿として光源氏を選ぶ過程を人々の会話を重ねる
という形式で語り進められている。
紫の上の心情
 「をこがましく思ひむすぼるさま、世人に漏り聞こえじ」

みじめにうちしがれているなどという噂が世間に漏れ伝わるなど絶対に
ないようにしようと心配をする。」
光源氏が女三の宮のところに出かけようとすると、紫の上が
「みづからの御心ながらだに、え定めたまふまじかなるを、ましてことわり
も何も、いづこにとよるべきにか」と、言ふかひなげにとりなしたまえば」

そんないいわけなど言っても、これでおわりというわけではないのに
 と冷たくぴしりと決めつけられて光源氏はおろおろとする。
紫の上は、周囲の女房達(光源氏のお手つき)の不幸を探って同情しようと
 する周囲の視線こそが神経過敏にし苦しめている。

夜深き鶏の声
 寝返りもできなく寝付けない紫の上は、まんじりともせずついに暁の鶏の
 声を聞く。
 光源氏も、女三の宮の寝所に居ながら夢に紫の上が見えた事に胸騒ぎを
感じ眠れず、一番鶏が鳴くのを待つ続けて女三の宮の元を去る。
共に眠れず相手のことを思い続けて、鶏の声を聞いた。
読者だけがわかる「ドラマティク・アイロニー」の世界。

人間存在の絶対的孤独と愛。
明石の君の存在が大きくなってくるにしたがい、光源氏の愛情も
わが人生のついのよすがたりえないという、人間存在の絶対的な
孤独の覚悟をする。
「誰も久しくとまるべき世にはあらざなれど、まづ我ひとり行方
 しらずなりなむを思い続くる、いみじうあわれなり」

紫の上の死
「おくと見るほどぞはかなき ともすれば風に乱るる萩の上露」

「私が起きているとご覧なさっているのも、もうほんのつかのまの
ことですよ。私の命は、ともすれば風に乱れる萩の上に置いた露と
同じようにはかないのです」
そしてこの夜の明け方に紫の上はしずかに息を引き取ったのであった。

二、宇治十帖の世界
第三部。 主人公は薫(女三の宮の子共だが柏木との密通で生まれた子)
 薫と大君とのプラトニックな愛
  「もの隔ててなど聞こえば、まことら心の隔てはさらにあるまじくなむ」 
  空蝉と光源氏との関係と似ている。
 大君の臨終の直前に、「長き心をかたみに身果つべきわざ」
訳 永遠に変らぬ心を互いに最後ま交わし合うことができるわざ

人と人の心の通い合いを追求する思念に貫かれた物語である。

反復される五つのパターン
一、高貴な生まれであるが後ろ盾を失う不安定な境遇の女主人公
  なっている。
例 藤壺、紫の上、女三の宮、
二、男はそのような境遇であるがこそ政治的な利害や世間の格式に
  とらわれず一途に純愛を貫く
三、 女も男の愛情に支えられているが不安定であり、ついに亡くなっ
てしまう。
四、女は男より先に亡くなるがその死の際に、率直に愛を告白する
五、後に残された男は女の面影を恋しがり、つきることのない悲しみに
暮れ惑う。  
ここで長恨歌の引用が反復されている。
  楊貴妃玄宗皇帝の物語では幻術使いが楊貴妃の言葉を探して
きて玄宗皇帝に伝える。 この幻術使いを源氏物語では
まぼろし」と言っている。
まぼろしの巻」
紫の上を失って深い悲しみと喪失漢にうちのめされている
光源氏の上を正月から年末までの一年の季節がゆっくりと一巡り
するだけの巻。
漱石の門 に似ている。
源氏物語が貫いている思想。
人が生きるということは、季節の中を生きるということである。
季節の中に愛と悲しみの記録を織り込めていくことである。

以上